読書は、合格への最短距離ではなく「最深距離」である

「先生、うちの子、活字を見るとすぐに目が泳いでしまうんです。ゲームなら何時間でも集中しているのに……。このままでは、浜松西高中等部の受験なんてとても無理ですよね」

先日、あるお母さんが絞り出すように仰った言葉が今も耳に残っています。その手は不安で小さく震えていました。静岡や愛知の公立中高一貫校、あるいは浜松北高・静岡高校といった難関校を目指す親御さんにとって、お子さんの「読書離れ」は、単なる趣味の問題ではなく、合否に直結する死活問題に見えることでしょう。

しかし、どうか安心してください。お母さんのその不安は、お子さんを想う深い愛情の裏返しです。

実は今、一冊の興味深い本を読み進めています。脳科学者・毛内拡氏の著書『読書する脳』です 。著者は読書が脳に及ぼす影響に強い関心を持ち、科学者の視点からそのメカニズムを解き明かそうと観察を始められたそうです 。これはいわゆる「効率的な勉強法」を説くハウツー本ではなく、緻密なデータに基づいたリアルな科学本です 。

読み進めるうちに、私は思わず膝を打ちました。そこには、私が長年の受験指導の現場で肌身に感じてきた「確信」が、科学の言葉でありのままに裏付けられていたからです 

「だから、読書習慣があるお子さんは、あれほどまでにしなやかに合格を掴み取っていくのか」

確信が、深い感嘆に変わりました。それでは、この本の中で語られている知見の中から、私が特に「これこそが受験の本質だ」と感じたトピックスをいくつか紐解いてご紹介しましょう。

脳が求めているのは、情報ではなく「深い呼吸」

現代のお子さんは、常に情報の激流の中にいます。休日には300分もの時間をスマホに費やす高校生も珍しくありません 。動画やSNSは、脳にとって「受け身」の刺激です 。次々と流れてくるセンセーショナルな情報に、脳の前頭前野は過剰に働き、悲鳴を上げています 。これが「脳疲労」の正体です 。

一方で、紙の本を開くという行為は、脳にとって全く異なる体験をもたらします。 わずか6分間の読書が、ストレスを約70%も軽減させるというデータがあります 。紙の手触り、インクの匂い、ページをめくる音。五感をフルに活用する読書は、脳をリラックスさせ、深い「没入」へと導きます 。

ある時、静大附属浜松中を目指していたお子さんが、授業が始まる前に一冊の小説を夢中で読んでいました。その時、彼はまさに「深い呼吸」をしていました。紙の本を読むとき、人は自然と「ため息」をつくような深い呼吸になり、脳の血流が回復し、認知機能がリセットされるのです 。その静かな没入の時間こそが、試験会場という孤独な戦場で自分を保つ「心の地盤」を作ります。

「正解」を出す前に、「世界」を広げる

受験国語において、文章を「構造」として捉える力は不可欠です。しかし、それはテクニックだけで身につくものではありません。 日本語は、音を表す「表音文字(ひらがな)」と、イメージを映し出す「表意文字(漢字)」が混在する、世界でも稀な「脳をフル活用させる言語」です 。読書中、私たちの脳は、文字を追いながら映像を浮かべ、同時に音を処理し、さらに「この先はどうなるのか」と推論を重ねています 。

この多層的な脳の使い方は、読書でしか鍛えられません。本を読む習慣がある子は、脳の中に豊かな「データベース(知恵袋記憶)」を持っています 。小説を通じて他者の人生を「代理体験」し、自分とは違う視点を知る 。この共感力と想像力が、難関校の複雑な問題文を読み解く際の「心の羅針盤」となるのです 。

親の背中が、最高の「読み聞かせ」になる

「どうすれば本を読んでくれますか?」と問われれば、私はこうお答えします。 かつて、お子さんが幼かった頃、膝の上で絵本を読んであげた時の温度を覚えていますか? 幼少期の読み聞かせの記憶は、脳にとって「快」の記憶として刻まれ、一生の宝物になります 

今、お子さんが大きくなっていても、遅すぎることはありません 。 大切なのは、無理に読ませることではなく、親御さん自身が本を楽しみ、その「静かな時間」を慈しむ姿を見せることです。読書は、誰にも邪魔されない「精神的自由」の象徴です 。

静岡の公立高校入試において、浜松北高や静岡高校といった高い目標に挑むお子さんは、常に「正解しなければならない」という重圧にさらされています。だからこそ、家庭では、正解のない物語の世界に逃げ込める自由を許してあげてほしいのです。

読書体験が歩みになる

読書は、単なる知識の蓄積ではありません。それは脳をバランスよく活性化させ 、ストレスを和らげ 、未知の問いに立ち向かう「非認知能力」を育む、人間としての根源的な力です 。

受験は、知識を詰め込む作業ではありません。お子さんが自分の言葉を持ち、自分の足で人生を歩み出すための儀式です。だからこそ読書とともに勉強をしてほしいと願います。これこそが私が追い求める受験勉強です。


2026/02/04 Category | blog 



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