静岡県公立高校入試への提言「黄金の構成」という名の、優しすぎる檻
3月4日、5日。令和8年度、静岡県公立高校入試。受験生のみなさん、そしてその背中をずっと支え続けてこられた親御さん、本当にお疲れ様でした。入試を終え自宅に帰られたお子さんの、どこか晴れ晴れとした、それでいて少し疲れたような顔。それを見た瞬間、胸が熱くなったのは、あなただけではありません。
しかし、今年もまた、私の胸のうちは複雑な感情で満たされています。
毎年のように繰り返される、数学の計算問題から始まる大問1。そして、教科書の例題をなぞるような「黄金の構成」と呼ばれる出題パターン。 数学だけではありません、国語や英語もです。「今年も例年通りだったね」 その言葉に、多くの親御さんは安堵のため息をつかれたかもしれません。予測できることの安心感。それは、不確実な世の中で、唯一の救いに見えるからです。
けれど、私はあえて問いかけたいのです。 「その安心感は、本当にお子さんの未来を守るものなのでしょうか」と。
「ミスをしない」という能力の限界
静岡県の入試は、50点満点という非常にタイトな配点の中で、全受検生を一律の物差しで測ります。 そこでは、「何ができるか」よりも「いかに間違えないか」が合否を分ける。 まるで、傷ひとつない均一な製品を作る工場のような、そんな「正確さ」ばかりが求められる世界です。
かつて、あるお母さんが私の前で涙を流されました。
「うちの子、あんなに勉強したのに。たった一つのケアレスミスで、内申点が足りないからって、行きたかった学校を諦めなきゃいけないんですか」
その言葉の重みに、私は返す言葉が見つかりませんでした。 静岡県独自の「三段階選抜」と、内申点の圧倒的な重み。 中学3年生の2学期には、すでにある程度の勝負が決まってしまうこの残酷なシステム。 一度の失敗も許されない、やり直しのきかない息苦しさ。 教育委員会が重んじる「公平性」や「安定性」という言葉の裏側で、子どもたちの「凸凹した才能」や「土壇場で発揮される爆発的な思考力」が、静かに削ぎ落とされている。 私は、その光景を現場でずっと見てきました。

止まった時計、動き出す世界
外の世界に目を向ければ、時代は激変しています。 東京都などの先進的な地域では、単なる知識の再生ではなく、正解のない問いに対して自らの論理を組み立てる「探究型」の出題へと大きく舵を切っています。 大学入学共通テストも、もはや「パターンの習得」だけでは太刀打ちできない、対話や多角的な資料分析を求める形式へと進化しました。
それなのに、私たちの静岡県はどうでしょうか。出題傾向にほぼ変化なし。 「中学校現場の混乱を避けるため」「採点の効率を上げるため」。 そんな大人の事情が、つまりは政治的な保身や事務的な都合が、子どもたちの学ぶ意欲の質を、そして将来の競争力を歪めてしまっているように思えてなりません。 私は、今の入試問題を見るたびに、静岡県の子どもたちが「優しすぎる檻」の中に閉じ込められているような、そんな言いようのない危機感を感じるのです。

「パターン学習」を繰り返せば、合格は手に入るかもしれません。 しかし、その先に待っているのは、正解のない荒波が吹き荒れる社会です。 そこでは、「正解の型を覚える」力ではなく、「自ら問いを立て、粘り強く考え続ける力」こそが生きる術となります。
あなたのお子さんに、何を贈りたいですか
私は、塾長として、これまで数多くの受験生と向き合ってきました。
浜松北や浜松市立といった難関校を目指す子も、一生懸命に基礎を積み上げる子も、みんな等しく輝く可能性を持っています。
けれど、彼らが日々取り組んでいるのは、 「このパターンのときは、この公式」 「記述は、このキーワードを入れれば減点されない」 といった、ある種の「作業」になってはいないでしょうか。
私は、教育の場に、もう少し「混沌」を取り戻したいと思っています。
もっと迷っていい。
もっと間違えていい。
もっと考え込んでいい。
すぐに答えが出ない問いに向き合い、自分の頭で悩み抜くこと。
その時間こそが、学力の深さを育てるからです。
一問一答のように処理していく勉強ではなく、
「なぜだろう」
「本当にそうだろうか」
と立ち止まる学びへ。
静岡県の入試もまた、そうした真の学力に光を当てる方向へ、少しずつでも進んでいってほしい。
私はそう願っています。
そして同時に、たとえ制度がすぐには変わらなかったとしても、私たち大人が子どもたちに手渡せるものはあります。
正解を速く出す力だけではなく、
問い続ける力を。
間違いから立ち上がる力を。
型を覚えるだけでは終わらない、本物の思考力を。
合格は大切です。
けれど、その先の人生はもっと長い。
そんな「真の学力」を問う入試へと、この県のシステムを、政治の力で、そして教育行政の勇気で変えていくべきだと強く願っています。
2026/03/06 Category | blog

