家族の対話が育む思考のプロセス、浜松西高中等部・静岡大学附属浜松中の合格
エビデンスが示す団欒の力
食卓が教室になるとき
「うちの子、勉強はしているのに成績が伸びないんです」。そんな相談をいただくたび、私はこう聞き返します。「ご家族での会話の時間はどれくらいありますか?」
博報堂教育財団の最新調査によると、子どもたちの73.8%が「もっと家族と話したい」と答えており、69.8%が「もっと家族といっしょにいたい」と感じています。一方で、文部科学省の調査では、親が子どもとふれあう時間は平日で「1〜2時間未満」が最も多く、象印マホービンの調査では、理想的な一家団欒を週7日と考える母親が42.7%いるものの、実際に実現できているのは27%にとどまります。
この数字が物語るのは、現代家族の切実な現実です。子どもたちは家族との時間を求めているのに、実際にはそれが十分に確保できていない。そして、この「対話不足」こそが、学力の伸び悩みと深い関係があるのです。
会話が脳を育てる科学的根拠
静岡大学の研究チームが全国学力テストを用いて行った分析では、興味深い発見がありました。読書活動がテストの結果に与える直接効果はそれほど大きくないものの、間接効果の方が大きいというのです。つまり、読書活動が学習活動に影響を与え、それが成績に反映されるという間接的な関係性が存在する。
これは家族の対話についても同じことが言えます。親子の会話そのものが直接的に算数の問題を解けるようにするわけではありません。しかし、対話を通じて育まれる「考える力」「表現する力」「相手の立場で物事を見る力」が、結果的に学習全般の基盤となるのです。
近年の入試傾向を見ても、浜松西高中等部や静大附属浜松中では「思考プロセスを表現する力」が重視されています。これは一朝一夕には身につかない能力で、日々の家族との対話の中で少しずつ養われていくものなのです。
17世紀の哲学者パスカルの名言に「人間は考える葦である」というものがあります。彼は人間の弱さを認めながらも、考える力こそが人間の尊厳だと説きました。
以前、ある小学5年生のお母様からこんな話を聞きました。コロナ禍で家族が家にいる時間が長くなり、夕食時にその日のニュースについて話し合うようになったそうです。最初は「へー」「そうなんだ」程度の反応だった息子さんが、数ヶ月後には「でも、なんでそうなったんだろう?」「もし自分だったらどうする?」と自ら疑問を投げかけるようになった。そして驚いたのは、学校の作文コンクールで初めて入賞したことでした。
日常に潜む「学びの種」
イラストを通じて子どもの「自分で考えて行動する力」を育てるアート教育に力を入れる”アタムアカデミー”の調査では、親子関係を深めるコミュニケーション方法の第1位が「子どもの話を聞く」(53.2%)、第2位が「子どもを尊重する」(33.5%)でした。注目すべきは、多くの保護者が「話を遮らずに最後まで聞く」「手を止めて子どもの目を見て聞く」など、聞き方に工夫をしている点です。
これこそが思考力育成の出発点なのです。子どもが「ちゃんと聞いてもらえた」と感じるとき、その子の中で言葉にする意欲が育ちます。最初はまとまりのない話でも、「それからどうなったの?」「君はどう思った?」という問いかけによって、徐々に論理的な思考が形成されていくのです。
忙しい毎日の中でも、できることはたくさんあります。お風呂で今日の出来事を聞く、寝る前に「もし◯◯だったら、どうする?」という仮想の質問をしてみる、一緒に料理をしながら「なんでお塩を入れるんだっけ?」と問いかける。そんな何気ない会話の積み重ねが、やがて入試で求められる「思考力」の土台となります。
家族の団欒は、単なる憩いの時間ではありません。それは子どもの心と頭脳を育む、最も身近で最も大切な「教室」なのです。今夜の夕食から、ほんの少し意識を変えてみませんか。きっと、お子さんの新しい一面が見えてくるはずです。
2025/07/11 Category | blog
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