【何のための中学受験なのか Ep.4】心のエンジンに火を灯す、「できた!」の魔法

前回は、厳しい経験がお子さんの心を竹のようにしなやかに育てる、というお話をしました。

では、そのしなやかな心が、困難に立ち向かっていくための「エネルギー」は、どこからやってくるのでしょう。

今日は、お子さんの心の中に眠る、力強いエンジンのお話です。

心理学の世界では、これを「自己効力感」と呼びます。

なんだか少し難しい言葉ですが、これはとてもシンプルで、温かい光のような力のこと。「自分なら、きっとこの問題を乗り越えられる」「やればできるはずだ」と、自分自身の可能性を信じることのできる心のことです。

これは、「自分はすごい人間だ」という漠然とした自信(自尊心)とは少し違います。そうではなく、目の前にある具体的な課題に対して、「私なら、きっとできる」と思える、もっと地に足のついた、力強い信念なのです。

では、この自己効力感という名のエンジンは、どうすれば力強く回り出すのでしょう。

その最大の燃料となるのが、「遂行行動の達成」、つまり、自分自身の力で「できた!」という坂道を一つひとつ上った経験です。

中学受験の日々は、一見すると苦しいだけのように見えるかもしれません。

でも、視点を変えれば、この「小さな『できた!』」という宝物を見つけるための、またとない冒険の毎日なのです。

昨日、あれほど悩んだ算数の問題が、今日、すらすらと解けるようになる。

満点をとった漢字の小テストを、少し照れくさそうに、でも誇らしげに見せてくれる。

そんな一つひとつのささやかな成功体験が、お子さんの心の中に、「自分はできるんだ」という確かな感覚を、レンガを積むように、着実に築き上げていきます。

実はこのとき、お子さんの脳の中では、素敵なことが起きています。

目標を達成すると、脳は「よく頑張ったね!」というメッセージと共に、ドーパミンという、嬉しくなったり、やる気が出たりする魔法の物質をプレゼントしてくれるのです。

この脳からのご褒美が、とても心地よいので、お子さんは「また、あのご褒美が欲しいな」「もっとやってみたいな」と感じるようになります。

こうして、「努力して、頑張る」→「小さな『できた!』を経験する」→「脳が喜んで、やる気が出る」→「だから、また頑張れる」という、幸せなサイクルが回り始めます。これこそが、自己効力感のエンジンに、勢いよく火が灯る瞬間なのです。

そして、この幸せなサイクルを力強く回していくために、決定的に重要な役割を果たすのが、私たち親の「言葉」という名の追い風です。

お子さんが良い点を取ったとき、私たちはつい、「あなたは本当に頭がいいのね!」と言ってしまいがちです。

最高の褒め言葉に聞こえますが、実は、もっとお子さんの心のエンジンを力強くする、魔法の言葉があるのです。

それは、結果や才能ではなく、「プロセス(過程)」に光を当てる言葉です。

「あんなに難しい問題だったのに、最後まで諦めずによく粘ったね」。

「毎日コツコツ漢字の練習をしていたものね。その努力が、この満点に繋がったんだね」。

こんな風に、具体的な努力の過程を言葉にして認めてあげることで、お子さんの心には「そうか、僕が賢いからじゃない。頑張ったからできるようになったんだ。だから、次も頑張れば、きっとできるはずだ」という信念が育っていきます。

これは、知能や才能は生まれつきのものではなく、努力によっていくらでも伸ばしていける、という「成長マインドセット」の考え方そのものです。

私たち親の言葉は、この小さな自信の芽を育てる、太陽の光であり、恵みの水。

日々の学習という名の土壌に、どんな言葉の栄養を与えてあげるかで、お子さんの心に宿る「自分を信じる力」の育ち方は、大きく変わってくるのかもしれませんね。

次回へ続く


2025/09/04 Category | blog 



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