【何のための中学受験なのか Ep.7】心を育てる、親の「言葉の魔法」

前回、私たち親の役割は、お子さんが安心して過ごせる温かい家を設計する「建築家」のよう、というお話をしました。

では、その家の中で、私たちはどんな言葉を交わし、どんな表情で、お子さんと向き合えばいいのでしょう。

今日は、お子さんの心のエンジンにそっと火を灯し、その子の未来を照らす、具体的で温かい「言葉の魔法」についてお話ししたいと思います。これらはすべて、研究によってその効果が示されている、大切な対話の技術です。

魔法その1:「結果」ではなく、そこに至る「物語」を褒める

テストで良い点を取ってきたとき、私たちはつい「頭がいいのね!」と言ってしまいがちです。でも、もっとお子さんの心に深く届く言葉があります。それは、結果ではなく、そこに至るまでの努力の道のり、つまり「物語」に光を当てることです。

「あの難しい問題、最後まで諦めずによく粘ったね」

「毎日コツコツ計画通りに進めていたものね。本当にすごいよ」

こんな風に声をかけると、お子さんの心には「才能があるからじゃない。頑張ったからできるようになったんだ」という自信が育ちます。これこそが、自分を信じる力(自己効力感)の源泉となるのです 。

魔法その2:「正論」よりも、まずは「共感」の言葉を

お子さんが「もう無理、疲れた」と不安を口にするとき。私たち親は、良かれと思って、つい「弱音を吐いてないで頑張りなさい!」と励ましたり、「こうすればいいのよ」と正しい答えを教えたりしたくなります。

でも、どうかその一言を、ぐっとこらえてみてください。

そして、まずはお子さんの心の声に、静かに耳を傾けてあげてください。

「そうか、そんなに不安なんだね」

ただ、その気持ちを受け止めてあげる。アドバイスは、その後でも遅くありません。自分の気持ちを分かってもらえた、と感じる安心感こそが、お子さんが再び顔を上げて、次の一歩を踏み出すための何よりの力になるのです。

魔法その3:揺れる心に「名前」をつけてあげる

お子さん自身も、自分の心の中で渦巻く感情の正体が分からず、混乱していることがあります。そんなとき、親がその気持ちを言葉にしてあげるのです。

「悔しいね」

「それは、本当に悲しいよね」

自分の気持ちに「悔しい」「悲しい」という名前がつくことで、お子さんは初めて、自分の感情を客観的に見つめ、向き合うことができるようになります。感情を否定せず、ありのままに認めてあげるその姿勢が、お子さんの自己肯定感を静かに、しかし力強く育んでいくのです。

魔法その4:ライバルは「他の誰か」ではなく、「昨日の自分」

「〇〇ちゃんは、もうこんなに進んでいるのに…」。他人との比較は、時として子どもの心を深く傷つけ、自信を奪います。比べるべき相手は、他の誰かではありません。

「半年前は全く歯が立たなかったこの問題が、スラスラ解けるようになったじゃないか!」

こんな風に、過去の本人と比べて、その成長を具体的に言葉にしてあげてください。そうすれば、お子さんは自分の歩んできた道のりを実感し、「自分は、ちゃんと前に進めているんだ」という確かな自信を深めることができます。


これらの魔法に共通しているのは、たった一つの、とてもシンプルな姿勢です。

それは、私たちが評価者や監督者ではなく、お子さんの人生の「伴走者」である、という覚悟。

ゴールテープの前でタイムを計る審判でも、コースの外から檄を飛ばす監督でもない。

お子さんのすぐ隣で、同じ歩幅で、時に一緒に息を切らしながら走る、一番の味方。

そんな存在でありたいと、心から思うのです。


2025/10/03 Category | blog 



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