“目標設定”の魔力- 子どもの心に灯る希望の明かり
先日、ある中3受験生男子とのコンサルティングで、印象深い場面がありました。
その日、生徒は「夏休みに学調に向けて何を勉強すればいいんですか?」と聞いてきました。毎年この時期になると、多くの受験生が同じような質問をします。でも私は、すぐに勉強法を教える前に、必ずこう聞き返すことにしています。
「ところで、9月の学調では何点を目指したい?」
すると、その生徒は少し困ったような顔をして「う〜ん、前回より上げたいです」と曖昧に答えました。
「前回より上げたいって、具体的には何点?5点上げたいのか、20点上げたいのかで、やることって全然違うよね」
そこで私は、彼の前回の学調(中2)を一緒に見ながら、丁寧に聞いていきました。英語は何点だった?国語は?数学は?一つひとつ確認していくと、合計で215点でした。
「じゃあ、今度は何点取れそう?理想を言ってみて」
「220点…取れたらいいなと思います」
その瞬間、ようやく彼の目に光が宿りました。でも私はさらに踏み込みます。
「220点が理想なら、最高でどこまで狙える?逆に、これだけは死守したいという最低ラインは?」
しばらく考えて、彼は言いました。「最高目標は225点。最低でも210点は取りたいです」
この瞬間、私はその生徒の表情が変わるのを見ました。ただ漠然と「頑張る」と言っていた時とは明らかに違う、まっすぐな眼差しになったのです。
数字が持つ不思議な力
目標を数字で表すということは、単なる数値化以上の意味があります。心理学者のエドウィン・ロック博士の研究によれば、具体的で挑戦的な目標を設定した人は、曖昧な目標を持つ人よりも90%も高いパフォーマンスを発揮するといいます。
この中3受験生男子の場合、「頑張って勉強する」という漠然とした想いが、「220点を取る」という明確な目標に変わった瞬間、彼の中で何かが動き始めました。
「英語は46点以上を維持して、国語で5点アップ。数学と社会は2点ずつ、理科は1点アップを目指します」
科目ごとの戦略まで自分で考え始めたのです。まるで霧が晴れるように、やるべきことが見えてきたのでしょう。
親として、どう関わるか
お子さんに目標を持たせたいと思われる親御さんは多いでしょう。でも、ここで大切なのは「押し付けない」ということです。
この生徒のお母さんも最初は心配されていました。「うちの子、目標なんて立てられるかしら」と。でも、私たちがその生徒と一緒に考える過程を見守っていただくうちに、「子どもって、こんなふうに考えられるんですね」と驚かれていました。
目標設定で最も大切なのは、子ども自身が「この目標なら、やってみたい」と思えることです。親が「○○点取りなさい」と言うのと、子どもが「○○点取りたい」と言うのでは、まったく違います。
目標が生み出す「ワクワク」
この生徒は最後に言いました。「なんだかワクワクしてきました」と。
これこそが、目標設定の真の効果だと思います。目標は単なる数値ではなく、子どもの心に希望という名の明かりを灯すのです。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「すべての芸術、すべての探求、同様にすべての行為や選択は、何らかの善を目指している」と言いました。私たちが子どもと一緒に目標を設定するとき、実はその「善」に向かう道筋を示しているのかもしれません。
家庭でできる目標設定のコツ
- 子どもの言葉を待つ
「どうしたい?」と問いかけて、子どもが自分の言葉で答えるまで待ってあげてください。 - 数字で表現する
「頑張る」ではなく「○点取る」「○冊読む」など、具体的な数字にしてみましょう。 - 達成可能性を一緒に考える
高すぎず低すぎず、「ちょっと頑張れば届きそう」な目標を子どもと話し合ってください。 - 応援する姿勢を見せる
結果よりも、目標に向かって努力する過程を認めてあげることが大切です。
親御さん、今度お子さんと話すとき、「どんな目標を持ちたい?」と聞いてみませんか。きっと、お子さんの新しい一面に出会えるはずです。
その小さな目標が、やがて大きな夢へと育っていく種になるのですから。
2025/07/08 Category | blog
« 静岡大学附属浜松中受験:仕事で忙しくても、娘さんは必ず自分で学べるようになります 公立中高一貫校生のための学力推移調査で結果を出すために本当に必要なこと »
