【10/21付】意見を育てるニュース教室:お子さんが読む本の「重さ」に、気づいていますか?
お父さん、お母さん、お子さんが今、どんな本に夢中になっているか、ご存知でしょうか。
そして、その本棚に、もし、大人である私たちが読むのさえ躊躇するような、重いテーマの本が並んでいたとしたら。その理由を、尋ねたことはありますか?
昨日(10/21)、意見を育てるニュース教室 で「おすすめの一冊」を発表してもらう授業を行いました。
野球漫画やファンタジー、日常の謎解きなど、子どもらしい選書に微笑ましく耳を傾けていた私は、ある発表が続いたとき、思わず息を呑みました。
ある生徒さんが紹介してくれたのは、東野圭吾氏の『手紙』。
強盗殺人を犯した兄と、その弟の物語。彼女は、「兄の優しさを感じた。僕が新たな考え方を得た一冊」と、静かに語りました。
またある生徒さんは、重松清氏の『星のかけら』を挙げました。
いじめで命を落とした幽霊と、今いじめに苦しむ主人公の物語。「生と死の境について考えさせられ、命の重みを実感させられた」と。
さらに、『かがみの孤城』を選んだ生徒さんは、「主人公がいじめを解決するためにとる勇気ある行動に心をうたれた」と、まっすぐな目で話してくれました。
いじめ、犯罪、加害者家族の苦悩、そして、人の死。
これらはすべて、私たち大人が、できれば子どもたちを遠ざけておきたいと願う、世界の暗く、重い側面です。
私たちはつい、「子どもには、まだ早い」「そんな暗い本より、もっと明るく楽しいものを」と、無菌室で育てるかのように、純粋な世界だけを与えようとしてしまいがちです。
しかし、子どもたちは、もう気づいています。
この世界が、決して楽しいことばかりではないということに。理不尽な暴力や、どうしようもない悲しみ、複雑な人間関係が存在するということを。彼らは、肌でそれを感じ取っています。
そして、彼らは必死に探しているのです。
自分がやがて直面するであろうその複雑な世界を、どう生き抜いていけばいいのか。困難に出会ったとき、どう立ち向かえばいいのか。その答えのヒントを、彼らは本の中に求めているのです。
読書とは、人生のリハーサルです。
安全な紙の上で、主人公と共に絶望し、悩み、傷つき、そして、微かな光を求めて立ち上がる。その「疑似体験」こそが、お子さんの心を、ただ守られるだけの脆いものから、困難に立ち向かえる、強くしなやかなものへと鍛え上げてくれるのです。
授業を担当した小川先生は、報告書にこう綴っていました。
「ただ面白いというだけでなく、自らの考えを変えた一冊というものもあり、読書が人に与える影響の大きさをあらためて感じさせられた」
私も、全く同じ気持ちです。
子どもたちが、これほどまでに重いテーマと真剣に向き合い、自らの「考え方」を変えるほどの深い読書体験を積んでいたこと。その事実に、私は感動を禁じ得ませんでした。
もし、お子さんが、こうした答えの出ない、重いテーマの本を読んでいたら。
それは、彼らが今まさに、自分の力で「考える葦(パンセ)」になろうと、複雑な世界を生き抜くための「心の幹」を育てようとしている、最も尊い時間です。
どうか、その時間を邪魔しないであげてください。
そして、もしよろしければ、こう尋ねてみてはいただけないでしょうか。
「その本を読んで、あなたの考え方は、どう変わったの?」と。
きっとそこには、私たち大人がハッとさせられるような、深く、誠実な「答え」が待っているはずですから。

2025/10/22 Category | blog
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