【何のための中学受験なのかシリーズ Ep.1】わが家は大丈夫? データが映し出す、親子の心の景色

「中学受験って、こんなに大変だったなんて…」

お子さんの勉強を見ながら、ふと、そんなため息が漏れることはありませんか。

思うように上がらない成績。減っていく親子の会話。このままでいいのだろうかという焦り。

「もしかして、こんなに苦しいのは、うちだけなのだろうか…」

そう感じて、深い夜に独り、孤独な気持ちを抱えているお母さん、お父さんは、決して少なくありません。

でも、安心してください。あなたのご家庭だけが、特別なのではありませんよ。

少しだけ、客観的なデータという名の地図を広げて、今わたしたちが立っている場所を、一緒に眺めてみませんか。

ある調査で、中学受験に臨む親御さんが最も不安に感じていることは何か、という問いがありました。一番多かった答えは、意外にも「成績や合否」ではなかったのです。それは、「お子さんの心理的ストレス」でした。

この結果を見たとき、私は「そうだろう、そうだろう」と、深く頷いてしまいました。

点数や偏差値ももちろん心配だけれど、それ以上に、わが子が心の健やかさを失っていないか、無理をしすぎていないか、親としてそこが一番気がかりですよね。そのお気持ち、痛いほどよく分かります。

そして、その心配は、残念ながら的を射ていることも、データは示しています。

2022年、全国偏差値60以上の中学校に通う子どもを持つ保護者を対象に調査を行ったひまわり教育研究センターによると、中学受験をするお子さんは、しないお子さんに比べて、どうしても睡眠時間が短くなる傾向にあります。特に、難しい学校を目指すご家庭では、4割近くが「夜寝る時間が遅くなること」を最大の悩みに挙げています。

時計の針が11時を回り、12時に近づく。まだ机に向かうわが子の背中を見つめながら、親として感じる焦りと罪悪感。その小さな肩に、どれほどの重荷を背負わせてしまっているのだろうと、胸が苦しくなる夜。それは、受験を経験する多くのご家庭が共有している、切ない原風景なのかもしれません。

このストレスは、もちろんお子さんだけのものではありません。

調査によれば、受験生のいるご家庭の約半数で、お母さんやお父さんが、10段階評価で「7」以上の強いストレスを感じているといいます。これもまた、非受験家庭に比べて、際立って高い数字です。

そして、この見えないストレスは、少しずつ、しかし確実に、家庭の空気の色を変えていきます。

気づけば、食卓での会話は「今日の宿題は終わったの?」「この前のテスト、どうだった?」といった言葉ばかり。お子さんが学校で笑った話、友達とのこと、好きなアニメの話…。そんな、栄養満点だったはずの何気ない会話の時間が、どんどん減っていくのです。

ここで、少し勇気のいる言葉を使わせていただきますね。

「教育虐待」という言葉です。

この言葉を聞いて、胸がえぐられるような思いがする方もいるかもしれません。自分とは無関係の、どこか遠い世界の話だ、と。

けれど、私はそうは思いません。

わが子を思うあまりの深い愛情が、合格させたいという強い願いが、ほんの少しだけ形を変えてしまったとき、それは時に、お子さんの心を傷つける鋭い刃になってしまう危うさを、私たち親は、誰しもが持っているのではないでしょうか。

「あなたのためだから」

その言葉が、お子さんを追い詰める呪文になってはいないか。

私たちは常に、自問し続ける必要があるのかもしれません。

しかし、希望の光も、データは示してくれています。

これだけ学習の負担が増えても、お子さんが反抗的な態度をとるようになるかどうかは、受験をするかしないかで、実はそこまで大きな差はない、という結果が出ているのです。

ここに、私は大きなヒントが隠されているように思うのです。

「中学受験=子どもが荒れる」という単純な方程式は、成り立たない。

ストレスという名の嵐が吹き荒れるのは、どの家庭も同じ。

その嵐の中で、親子の船が大きく揺れ、壊れてしまうのか。それとも、嵐を乗り越えることで、より一層、頑丈で温かい船になるのか。

その違いは、一体どこから生まれるのでしょう。

ストレスそのものを、なくすことはできないのかもしれません。

けれど、そのストレスとの「向き合い方」や、親子の「関わり方」は、きっと選ぶことができるはずです。

次回は、そのヒントの在処を、もう少し深く探ってみたいと思います。


2025/08/22 Category | blog 



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