【何のための中学受験なのか Ep.3】嵐を越えた船は、もっと強くなる。
前回、前々回と、中学受験がもたらす「毒」と、その正体が私たち親自身の「不安」にあるのかもしれない、という少し辛いお話をしてきました。
刃(やいば)のように鋭い言葉で、お子さんを傷つけてしまった夜。
そんな自分を責めて、眠れなかったお母さん、お父さんもいらっしゃるかもしれません。
でも、大丈夫。今日は、希望の光が射す方へ、一緒に目を向けてみませんか。
嵐を乗り越えた船が、より一層頑丈になるように。中学受験という厳しい道のりは、確かにお子さんの一生の「宝物」を育む、またとない機会でもあるのですから。
最近、心理学の世界で「レジリエンス」という言葉が注目されています。
なんだか難しそうに聞こえますが、私はこれを「竹のような、しなやかな心」だと捉えています。強い風に吹かれても、ぽきんと折れてしまうのではなく、しなやかに曲がり、またすっくと立ち上がる力。そんな、たくましく回復する心の力のことです 。
考えてみれば、中学受験の道のりは、この「レジリエンス」を鍛えるための、またとない訓練の場と言えるかもしれません。
思うように伸びない模試の成績。どうしても乗り越えられない苦手科目。そして、最後には、たった一つしか選べない、合否という現実。大小さまざまな逆風が、次から次へと吹き付けます。
特に、親としてできることなら避けたい、わが子にだけは経験させたくないと願うのが、「不合格」という三文字ですよね。
その気持ち、痛いほど分かります。
でも、もし。
その胸が張り裂けるような経験こそが、お子さんの心を、誰よりも強く、そして優しく育ててくれる最高の贈り物になり得るとしたら、どうでしょう。
もちろん、ただ経験すればいいというわけではありません。大切なのは、その経験に、私たち親がどんな「意味」を与えてあげられるか、です。
お子さんが、涙に暮れているとき。
「あなたの努力が足りなかったからよ」と結果を責めるのではなく、「悔しいね。悲しいね。それだけ、あなたは本気で頑張ったんだもんね」と、その涙の熱さを、丸ごと受け止めてあげる。
そして、「でも、この悔しさを知っているあなたは、きっと前より強くなれたよ。確実に力はついているんだから、顔を上げて、次の一歩を踏み出そう」と、未来を指し示してあげる。
この、親からの無条件の受容と励ましこそが、お子さんの心にとっての「安全基地」となるのです。
どんなに荒れ狂う嵐の中でも、必ず帰れる温かい港がある。その安心感があるからこそ、子どもは失敗という名の嵐に飲み込まれることなく、自分の力で立ち向かい、乗り越える勇気を持つことができるのです。
実際、ある研究では、思春期のお子さんが困難にぶつかったとき、親が気持ちを受け止める姿勢でいると、お子さん自身が周りの助けを借りながら、しなやかに立ち直っていく力が育まれることが分かっています。
実はこれ、脳の仕組みから見ても、とても理にかなっているんですよ。
「大丈夫、ここに戻ってくればいい」という安全な場所があると分かっているからこそ、子どもは安心して新しい世界に挑戦できる。そして、そのドキドキするような挑戦と、それを乗り越えた経験が、脳をまるで筋トレのように鍛え上げ、ストレスに動じない、たくましい脳へと育てていくのです。
まるで、熱い炎と冷たい水に繰り返し打たれることで、ただの鉄が強靭な刀へと鍛え上げられていくように。
安全な家庭という名の工房で、受験という名の適度なストレスに触れることで、お子さんの心と脳は、しなやかで折れない強さをその身に宿していくのです。
困難な道は、避けられないかもしれません。
でも、その道が、お子さんを強くするための砥石(といし)になるとしたら。
その砥石をどう使うかは、私たち親の腕の見せ所、なのかもしれませんね。
2025/08/28 Category | blog
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